200年住宅のキーワードは「普遍性」
福田内閣の目玉政策の一つである、いわゆる「200年住宅」に係る国土交通省主催のコンペ(超長期住宅先導的モデル事業)の第1回目の審査結果が、7月7日に発表された※1。予想通りというか、当選案の大半は、やはり、ハードの新築戸建て住宅に係わるもので、大手ハウスメーカーの提案がずらりと並んでいた。本格的な住宅過剰時代、ストック時代を迎え、国がようやく、住宅の長寿命化という課題に本格的に取り組むようになったことは、率直に評価したいが、当選した提案の大半が、大量に余っている住宅ストックの長寿命化ではなく、相変わらず、新築住宅のシステム提案であるところに、この国の、過度に新築に依存した産業構造の実態が見えるようだ。
住宅の長寿命化には、ハードとしての住宅そのものの耐久性、耐震性などの性能が重要であることは確かであるが、実は、それだけでは、全く不十分である。当然、維持管理のシステムや住宅履歴システム、中古住宅の流通市場などのソフト面の整備も重要であるが、ここでは、一連の議論から見落とされがちな、住宅の「普遍性」という観点から、住宅の長寿命化という課題を考えてみたい。
わが国では、まだまだ老朽化していない状態の住宅が大量に取り壊される。典型的なパターンは、中古住宅が売りに出されたときである。多くの場合、この中古住宅は、新しい買主によって取り壊され、その跡地に、新しい住宅が建てられる。これは、中古住宅の耐久性や耐震性に問題がない場合にでも、大いに起こり得る。その最大の原因の一つとして、その中古住宅に「普遍性」が乏しいことが挙げられる。わが国の戸建て住宅は、注文住宅として建てられた場合、その注文主のその時点の家族形態やニーズにあった個別対応型の住宅が建てられる。よく言えば、居住者のニーズにあった住宅であり、個性的な住宅であるが、一般的な居住者から見れば、普遍性の乏しい、住みにくい住宅かもしれない。こうした普遍性の乏しい住宅を、自由設計と称して、大半のハウスメーカーが大量供給するわけである。そこには、本来のプレハブ生産システムがもっていたはずの普遍性は失われている。
たとえば、米国では、3bedroom・2bathroomの住宅といえば、地域は違っても、ほぼ同一の間取り、性能をもった住宅がイメージでき、だからこそ、年間700万件近い中古住宅の売買取引が行われているのである※2。つまり、住宅に普遍性があるからこそ、中古売買が容易にでき、築年数が経っても住宅の価値が下がらないという市場が形成され、結果的に、持ち主が替わっても住宅が長持ちすることになるのである。では、居住者のニーズに対応した住宅はないのかというと、典型的な家族形態にあわせた普遍性の高い住宅が何パターンか用意されているので、結果的に、家族の成長に合わせて住宅を買い替えることで、注文住宅でなくても、十分に居住者ニーズに対応した住宅に住めるわけである。こうした米国の事例は、住宅の長寿命化を考える上で、きわめて示唆に富むものと考えられる。
それでは、住宅の普遍性とは何であろうか。それは、耐久性・耐震性はもちろん、断熱性、遮音性等の基本的な住宅性能が一定基準以上であることと、ある程度以上の広さがあること、できれば、リニューアルしやすいことの3つが挙げられよう。基本的な住宅性能に問題のある住宅は、居住者にとって住みづらく、長期的なストックにはなりえない。また、住宅の広さの基準は、家族構成によって変わるものであるが、一部屋ごとの面積の狭い住宅は、やはり住みづらく、普遍性を持ち得ない。実際、住宅の寿命についての研究で知られる早稲田大学理工学術院の小松幸夫教授のお話では、住宅の広さと住宅の寿命の間には、統計的に明確な正の相関関係があるとのこと、つまり、広い住宅ほど長寿命なのである。リニューアルのしやすさというのは、構造躯体とは切り離して、内装・設備等の入れ替えを行いやすいということで、スケルトン・インフィル方式が代表的な考え方である。これは、耐久性のある丈夫なスケルトン(建物の骨組み)と、居住者ニーズや時代のニーズに対応し得る可変的なインフィル(内装・設備)を、それぞれ独立したシステムとして建築の中に実現するという考え方である。
いずれにせよ、居住者の個別的なニーズに対応することばかりに邁進してきた住宅業界や建築設計者は、長期的な社会ストック足り得る「普遍性」を持つ住宅をいかに供給していくかという課題に、今こそ、本格的に取り組む必要があるのではないだろうか。
※1:
■ 国土交通省 平成20年度(第1回)超長期住宅先導的モデル事業の採択事業の決定について
http://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000008.html
■ 添付資料
http://www.mlit.go.jp/common/000019293.pdf
※2:ちなみに、わが国では、中古住宅の流通数は年間20万戸にも満たない。
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