建築再生と医療行為の共通点
建設産業や不動産業を取り巻く社会・経済環境は、ここ十年あまりの間に様変わりをしている。それは、一言で言えば、スクラップ&ビルドの時代から、ストック時代への転換である。つまり、人口構造の変化や地球環境問題への対応などの観点から、これまでのように、築30年程度で建築物の取り壊し・建替えを繰り返していくような考え方を、もはや継続していくことが難しい時代になったということである。これからの時代の建設産業や不動産業に求められていることは、今あるストックとしての建築物を再生し、できる限り有効に利用し続けること、今後、建設していく建築物を、できる限り耐久性の高い、長期間利用できるものにしていくという技術であり、知恵である。こうしたストック時代の建築のあり方を考えていく上で最も重要なキーワードの一つとして、「建築再生」という概念がある。建物のリニューアルや、コンバージョン※1は、その代表例であり、これからの時代の建築行為は、「新築」中心から、「建築再生」中心へと変わっていくことが時代に必然である。実際、ヨーロッパ諸国では、すでに、新築に対する投資額よりも、建築再生に対する投資額の方が上回っているのである。
しかし、わが国において、この「建築再生」を推進していくことは、それほど易しいことではない。というのは、「建築再生」に係わる技術、生産システム、産業構造、法制度、マーケット、教育や職能などが、まだまだ未成熟であり、それらは、「新築」に係わるものとは全く異なるからである。特に、大学等の専門教育の観点から見ると、従来の建築教育のカリキュラムは、建物を新築するための技術や計画、デザインの教育が中心であり、「建築再生」を行うための教育はほとんど行われてこなかった。また、教える方の人材についても、「建築再生」の現場を経験した教員はほとんどいないのが現実である。そういった意味では、「建築再生」を推進していくためには、「建築再生」に係わる技術、計画、デザイン等の手法を体系化し、これを、「建築再生学」というひとつの学問分野として確立し、この分野の人材を育成していくことが急務と言えよう。
この「建築再生」は、ある意味で、「医療行為」ときわめて似ている。いわば、ストックとしての建築に対する「医療行為」が、「建築再生」なのである。つまり、患者の病状を診察し(既存建物の診断)、その悪いところ、痛んだところをどう直すかを検討し(建築再生の計画やデザイン)、実際の治療を行う(大規模修繕やコンバージョン工事等の実施)わけである。そして、実際の「医療」に、学問的裏付けとしての「医学」が必要なように、「建築再生」には、その学問的裏付けとしての「建築再生学」が必要なのである。また、「医学」が、基礎医学と臨床の相互フィードバックで成り立っているように、「建築再生学」も、構造・設備・環境等のエンジニアリングや、計画学、デザイン論等の「基礎理論」と、現場での建築行為という「臨床」の相互フィードバックによって、着実な発展を遂げる必要があるものと考えられる。
こうした「建築再生学」の第一歩として、東京大学の松村秀一教授を中心にしたメンバーで、「建築再生の進め方 -ストック時代の建築学入門-」という書籍を2007年10月に市ヶ谷出版社から出版し、2008年度の都市住宅学会の著作賞を受賞した。「建築再生」に関心のある方は、是非一度、手にとってご覧いただければ幸いである。
■ 『建築再生の進め方 -ストック時代の建築学入門-』 (市ヶ谷出版社)
http://www.ichigayashuppan.co.jp/books/229.htm
■ 『建築再生の進め方 -ストック時代の建築学入門-』
http://www.abrain.co.jp/consulting/property/susumekata
※1:「建築再生」の一類型であり、「ストックとしての建築の有用性が失われた局面において、その建築に何らかの手を加えて、建物の用途を転換することにより、建物の有用性を回復したり、新たな価値を加えたりする建築行為」を、建物の「コンバージョン」と呼ぶ。
福岡で設計事務所を営んでいます中村享一といいます。建築再生を医療の学問的裏付けとしてのアプローチするという意見には大変興味を持ちました。
「私達は2000年に建築再生デザイン会議(Architectural Regeneration Design Conference)を立ち上げました。多くの建築家・文化人類学者・ジャーナリスト・構造家が参加しました。http://www.naka-ar.com/ardchp/ardc.htmで広報した内容を見ることが出来ます。出版物を出すまでには至っていませんが、現在私の事務所ではオランダ村再生計画の提案を行っています。建築資産をどう活用するかを福祉と環境問題とデザインを主軸にした提案を行っています。長崎県西海市が利活用する事業者を募ったので応募しましたが、最終の3社に残っています。採択されたときはディベロッパーアーキテクトを目指すつもりですので今後意見交換が出来れば幸いです。